※本記事は住宅情報WEBマガジン Daily Lives Niigata による取材記事です。
新潟市西蒲区旧巻町。
周囲にはイチジク畑や田んぼが広がり、背後には角田山がそびえる。そんな巻らしい地域に80坪の土地を買い、Oさん夫婦は新築をした。
ダイナミックな片流れの大屋根に切妻屋根が突き出したシルエットが特徴的で、そのシャープな佇まいは遠くからでも目を引く。
「主人は栃尾出身で、私はこの近くに実家があり、これまで私の実家で暮らしてきました。娘が小学校に上がる前に家を建てたいね、と話していたんです」(奥様)。
風間建築事務所の代表・風間広大さんとの出会いは、知人からの紹介がきっかけだったという。「手掛ける家のデザインのテイストがすごくいいなと思いましたし、見せて頂いた風間さんの自宅も素敵でした」(奥様)。
さまざまな植栽が施された緑豊かな庭
白い大屋根の家は角地に立っており、西側に玄関、北側には県道が接しており、その向こう側には一面の田んぼが海原のように広がる。
大屋根はウッドデッキを覆うように伸びており、その南側には芝生の庭が設けられている。
「遊び心がある家がいいなと思っていて、ウッドデッキや庭に出やすい動線を希望しました」という奥様の要望は見事に具現化された。
庭はカーポートによってプライバシーが保たれており、ジューンベリーやオリーブ、もみの木などの木々が植えられている。広いウッドデッキは、休日に友人を招いてバーベキューを楽しむ異国のライフスタイルを彷彿させる空間だ。
「これから庭にハーブを植えたり、バーベキューをしたり、プールや花火もしてみたいですね」と、ご主人はこれからの外空間の使い方に想像を巡らせる。
使うのが楽しくなるオリジナルの洗面台
玄関ドアを開けると、オークの床が張られた廊下が奥へと伸びていた。家の形をした三角形の垂れ壁は、風間さんが得意とするモチーフだ。
壁には古材をフレームに使った姿見、両開きのスウィングドアで仕切られたシューズクローク、ニッチに使われたハニカムタイルなど、さまざまな素材がバランスよくコーディネートされている。
廊下を進んで行くと、左側に1坪の洗面コーナーが現れた。くすんだグリーンの壁紙にレトロなブラケットライト。オリジナルの洗面台には大容量の収納が設けられており、タオルやストック品をたっぷりと格納できる。
引き出しにはティッシュを取り出すスリットを設けるなど、使いやすさと美しさが細部まで丁寧に考えられている。
その背後の引き戸の中はトイレ。
太めのストライプの壁紙やクラックガラスのペンダントライトがポップな印象をつくり出している。
ランドリールームが、洗濯や物干しをスムーズに
廊下をさらに奥へと進んだ場所は、脱衣所・浴室・ランドリールーム。
2.5畳のランドリールームでは2本の物干し竿に洗濯物が干せる他、ガス乾燥機や実験用シンクなど機能的な設備も備えられている。
「実家が古い家で洗濯物を干すスペースがなかったので、物干しができる空間を希望しました」と奥様。
さらに、掃き出し窓を開ければ屋根が架かったウッドデッキに出られるので外干しもスムーズだ。
斜めに設置されたルーバーは目隠しになる上に、突然の雨で洗濯物が濡れるのを防いでくれる。
外の空気に包まれながら、朝食やお酒を
L字に伸びるウッドデッキを進んで行くと、LDK側へと回り込める。
約2m幅のウッドデッキは庇に守られており、さらにはダウンライトまで仕込まれている。
ダイニングセットを持ち出せば、外の空気に包まれながら朝食を食べたり、夜風を浴びながらワインやビールを楽しんだりと、旅先のコテージで過ごすような非日常感を気軽に味わえそうだ。
豊かな田園に海や山やワイナリーまである旧巻町。広いウッドデッキのあるO邸では、そんな地域に暮らす良さを五感で味わうことができる。
吹き抜けからの光が美しく差し込むリビング
約20畳のLDKは新潟市の床材専門店and wood(アンドウッド)が取り扱う、オークの単板張りフローリング。
合板に厚さ2mmのオークの単板を張ったフローリング材で、見た目は厚さ15mmの無垢材と同様だが、コストを抑えられる上に、限りある木材資源を有効活用できるという社会的なメリットもある。
LDKには、高さ2.4mの窓が連なる南側からだけでなく、北側に設けられた吹き抜けからも光が注ぐ。「昼過ぎくらいに階段上の高窓から差し込む光が特にきれいですよ」と風間さん。
リビング階段を採用したのは、お子様が帰宅後に玄関から直接個室に向かうのではなく、必ず家族と顔を合わせるようにしたいという理由から。
階段の踏板と蹴上げの側面をそろえた繊細な設計にも、風間さんの感性が表現されている。
階段を上り下りする何気ない行為さえも、この家では心弾む瞬間になりそうだ。
耐力壁を兼ねたタイル壁がインテリアのアクセント
広いLDKを持ちながらも、耐震性能は耐震等級3をクリア。そのために欠かせないのがダイニングとキッチンの間に設けられた壁だ。
「この壁は風間さんの提案で白いタイル張りにしました。壁の色や照明のデザインなど、自分たちの希望を伝えつつも、風間さんにバランスがおかしくないかアドバイスして頂きながら進めて行きました」と奥様。
空間を分断する壁が質感豊かなアクセントとなり、美しいインテリアとしてまとめられた。
ダイニングからはデッキや庭を眺めることができ、食事はもちろんここで過ごすティータイムも心地いい時間になりそうだ。
間接照明が空間を柔らかく照らすキッチン
キッチンは白い人工大理石の天板ですっきりとした空間に。あえて吊戸棚は設けず、代わりに飾り棚や間接照明を配してインテリアとしての美しさやまとまり感を重視した。
引き戸を開ければ、洗面コーナーやランドリー方面へと短い距離で行き来できる家事動線も考えられている。
キッチンの正面はリビング。
ソファでくつろぐ家族と会話したり、一緒にテレビを見ながら調理ができるのも特徴だ。サイドには大きなタイル壁があるため、床への水はねを防ぐこともできる。
田園を見渡すホールを中心に個室を配した2階
次に、階段を上がって2階へと向かった。
吹き抜けを通して1階に光を落としてくれているのは、西側の大きな高窓。ここから正面に西蒲区のシンボル角田山を望むことができる。
階段を上がった場所は4畳程のホール。
こちらには北向きのピクチャーウインドウがあり、街路樹とその向こうには何キロも先まで続く田園風景が広がっている。
北側ならではの1日中安定した光の中で、窓際のベンチに腰掛けて読書に勤しんだり、デスクを置いてスタディーコーナーにしたり、ソファやテレビを置いてゲームコーナーにしたりと、色々な使い方のイメージが広がる余白のような空間だ。
その両サイドには5.4畳の個室が左右対称に配されているが、それぞれ3畳のロフト付き。
ロフトに布団を敷けば、室内をゆったりと使うことができる。ちなみに、ロフトは家の中で最も眺望のいい場所だ。
ロフトの腰壁の笠木を半分だけにして、下から見上げた時に線がすっきり見えるようにするなど、ディテールにも風間さんのこだわりが見られる。
再び廊下に戻り奥へ進んで行くと、突き当たりには洗面スペースを兼ねたトイレが配されていた。
「娘が大きくなったら、部屋の近くに洗面台があった方が便利だと思い、洗面台付きのトイレにしてもらいました」と奥様。
鏡のフレームや、化粧品や歯ブラシなどを置くのに便利なライニングには杉の古材をあしらい、1階の洗面コーナーと同様にラフなテイストを加えている。
残りの1室は夫婦の寝室で、グレーの壁紙が落ち着いた雰囲気をつくり出している。
入口は45度の角度が付けられているが、そうすることで、ホールと寝室の広さを最適なバランスにしている。
寝室とウォークインクローゼットの間には、玄関と同様にスウィングドアを使用。空気の流れを遮らずに緩やかに空間を隔ててくれる。
奥には布団が収納できる大きな棚板が設けられているので、押入のように使うこともできる。
細やかなコミュニケーションで安心の家づくり
今回取材に訪れたのは4月下旬の引き渡し日。Oさん家族は、ゴールデンウィーク中に引っ越しをするという。
「風間さんには私たちが好きなイメージをインスタの画像などで伝えていましたが、そのテイストをくみ取って提案をしてくださいました。途中で私たちの要望が増えていったりもしたんですが、その度にきめ細かく予算がどれくらい変わるかを教えてもらえたので安心して進めることができましたね。そのあたりの気配りがすごく良かったですし、打ち合わせがいつも楽しかったです」と奥様は家づくりの過程を振り返る。
世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が広がった2020年春。緊急事態宣言下で新居での暮らしがスタートする。
しばらくは家で過ごす時間が長くなりそうだが、芝生の庭に広いウッドデッキ、そして雄大な田園風景と共にある住まいでの暮らしは、ストレスの少ないものになりそうだ。
リビングのコーナーには、この春小学校に上がった娘さんのために、アップライトピアノを置くという。家での時間が増える今だからこそできることや、学べることもたくさんある。
先行きの見えないこの時代の中で、新居は荒波を乗り越える方舟のように、家族の大切な拠り所となりそうだ。
O邸
新潟市西蒲区
延床面積120.34㎡(36.40坪)、1階64.86㎡(19.62坪)、2階55.48㎡(16.78坪)
設計・施工 株式会社 風間建築事務所
写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平