※本記事は住宅情報WEBマガジン Daily Lives Niigata による取材記事です。
暗く窮屈だった実家を建て替え
2024年の春に完成したTさん家族が住む家は、35坪の小さな土地に立っている。
この土地には元々ご主人が子ども時代に過ごした実家が立っていて、その建物を解体して新築をした。
Tさん夫婦は住宅相談窓口を訪れ、そこで紹介してもらったいくつかの住宅会社を訪問。その一方で、以前新潟市内で見つけた素敵な外観の住宅を建築していた風間建築事務所にも相談に行った。
「他の会社さんとの違いは、営業スタッフの方ではなく、代表の風間さんが対応してくれることでしたね。要望を伝えたらすぐ理解して頂けますし、最後まで面倒を見てもらえそうだと思いました」とご主人。
以前の家が狭くて暗かったことから、新たに建てる家には明るさや開放感を望んだという。
風間さんにとっても、3方に隣家が迫る土地で、いかにしてプライバシーを確保しながら光や風を取り込むかが重要なテーマとなった。
コンクリート・石・植栽が融合するアプローチ
建物手前は2台分の駐車スペースとアプローチ。
道路から建物までの距離はわずか4メートル。しかしながら、コンクリート平板と石、植栽を組み合わせたアプローチは変化に富んでおり、実際の距離以上の奥行感が生まれている。斜めにカットされたSGL鋼板の壁によって、玄関ドアが見え隠れするファサードデザインもユニークだ。
金属の壁から一変して、雨掛かりが少ないポーチ内は杉板仕上げ。この杉は宮崎県産の飫肥杉(おびすぎ)で、油分が多く含まれ高い耐朽性を持っているという。トンネルのようなポーチには両サイドから入ることができ、駐輪スペースとしても活躍する。
機能的で美しい玄関&シューズクローク
玄関はカーテンで仕切られたシューズクローク付き。
カーテンを開けるとすぐ前に可動棚があり、その隣には手洗いスペースがある。
壁の裏手には、帽子や傘を掛けて収納できる金属製のバーが備えられている。
コンパクトな空間ながらも必要な収納や機能がバランスよく集約されており、散らかりがちな玄関をすっきりと整えられる。
また、あえて上がり框を取り付けず、フローリングの断面をそのまま意匠として現すという、ディテールへのこだわりも垣間見える。
ちなみにこちらのフローリングは、新潟市内にある無垢フローリング専門店and wood社で扱っているオークのプライウッド(挽き板)。オーソドックスな幅120mm×長さ909mmの定尺材で、随所に見られる節が味わい深い。
建物最奥の坪庭から光を採り入れる
1階には玄関の他に、3つの個室とWIC、トイレが配されている。
玄関から奥へと伸びる廊下の突き当たりは6畳の子ども部屋で、高窓からの光が壁と天井を印象的に照らしている。
その手前左手はトイレ。
奥の死角に設けられた収納棚は、風間建築事務所定番の仕様だ。
一方、廊下の右手には7畳の寝室がある。
バーチカルブラインドを開放すると、窓の外に見えるのは株立ちのアオダモの木。
「奥にも隣家が立っていますので、プライバシーを確保しながら通風や採光を確保できるように、家の最も奥に壁をつくり、その手前を坪庭にしています。植物の蒸散作用によって風も起こりやすくなりますよ」と話すのは、風間建築事務所の代表・風間広大さん。
坪庭は4畳の広さがあり、視線を遮りながら光を集める井戸のような役割を果たしている。
南北に抜ける2階リビング
2階に通じる階段は建物の中ほどにある。
2階は南北に視線が抜ける開放的なプランで、中央に配された階段によって、リビングとダイニング・キッチンがゾーニングされているのが特徴。
リビングには物がほとんど置かれておらず、9.5畳の空間は広いホールのようだ。
「天井に付けた『ポップ・イン・アラジン』(プロジェクター付きの照明)で子どもが動画を見ながらよく踊っているので、リビングには今のところ家具を置く予定はありません。もっと大きくなってからソファを置くかもしれませんね」(奥様)。
リビングの南側は高い位置に窓が設けられており、その少し先に壁がある。
プライバシーを確保できるこの壁のおかげで、カーテンはいつも開け放しておけるし、窓を開けて風を採り込める。
逆サイドのダイニング側の窓も開けておけば、この2階のLDK全体が風の通り道となり、気候のいい初夏や秋は自然風だけで心地よく過ごすことができる。
カスタマイズが楽しい、風間建築事務所オリジナル洗面台
リビングと直結する南東角は洗面脱衣室。
幅1.8mの大きな造作洗面台は、風間建築事務所のオリジナル。
大容量のキャビネットと幅広のカウンター、洗面ボウル、水栓、タイル、ライニング、鏡、照明の組み合わせでつくられており、打ち合わせしながら素材やパーツを決めて、自分仕様の洗面台をセミオーダーでつくり込めるというものだ。
「室内の色をグレージュで統一していたので、キャビネットの色も同系色で合わせました。取っ手は真鍮製を選び、鏡は2人で並んで使いやすいように横長のものをつくって頂きました。キャビネットには、化粧品や洗剤などのストック、子どもの服などを収納していますが、まだ余裕があります」と奥様。
隣には洗濯機とガス衣類乾燥機『乾太くん』。その奥に浴室が配されている。
「乾太くんは本当に便利で家事が楽になりました。子どもの服はハンガーにかけて干しますが、それ以外は乾太くんで乾燥させています」(奥様)。
「あとは、脱衣所が広いので、お風呂上がりに子どもの髪をドライヤーで乾かすのもやりやすくなりましたね。前に住んでいた賃貸マンションは脱衣所が狭かったので、ドライヤーはいつもリビングでしていましたので」(ご主人)。
カフェモカ色がかわいい、セパレート型の造作キッチン
そして、この家で最も家族がくつろげる場所がダイニング・キッチンだ。
少し狭まった通路の先にあるのは、メーカー既製品ではなく造作のセパレートキッチン。シンクが付いているのは幅1,800mm×奥行700mmのアイランド型で、ここに立てば、目の前の小上がりやダイニングでくつろぐ家族と向かい合いながら作業ができる。
一方、コンロは壁付けにしているため、正面への油はねを気にせず作業ができる。アイランド型と壁付け型の“いいトコ取り”をしたのが、このⅡ型のセパレートキッチンだ。
造作キッチンの魅力はオーダーメイドできることにある。寸法はもちろん、引き出しのデザイン、水栓や設備機器、キャビネットの面材などを自由に選べるので、空間や好みに合わせて造り込める。
面材のメラミンは、洗面台と同じカフェモカカラー。引き出しの取っ手部分にあしらわれたウォールナットが上質感漂うアクセントになっている。
正方形に近い独特の縦横比を持つ壁のタイルは、2023年竣工の『玄鳥去頃の家。』で使われたタイルと同じ種類を採用。
壁付けのカウンターは幅約3.6mもあり、調理家電を4台並べてもなお作業スペースを確保できる余裕がある。
冷蔵庫をサイドに逃がすことで、冷蔵庫の存在感が抑えられているのも注目すべきポイントだ。
爽やかな風が通り抜ける、くつろぎのダイニング
最後に紹介するのは、キッチンの正面に配された小上がり&ダイニング。
こちらは小上がりとダイニングを一体にした空間。3畳の小上がりはお子さんの遊び場であり、お昼寝スペースでもある。
ダイニングテーブルは3枚のウォールナットの板を組み合わせ、スチール製の脚を取り付けたオリジナル。長さ2.5mを超える大きなテーブルは居酒屋の席のようだ。
窓辺に取り付けられたプリーツスクリーンは、アップダウンスタイルという上部も開くタイプを採用。プリーツスクリーンを下げることで、“たたみ代”が上部の窓の下に移動する。それによって窓がすっきりと見えるし、風の影響も受けにくくなる。
「小上がりは子どもだけでなく大人もくつろげますね。3畳は想像していたよりも広くて、ここで3人で昼寝をすることもあります。寝転がると窓から空が眺められますし、落下防止のための板がちょうどいい目隠しになっています」と奥様。
「前の家の暗さを経験していたので、建て替える家は明るくしたいと思っていましたが、2階リビングは明るいだけでなく広く感じます。階段を挟んだ2つの空間を使い分けられるのもいいですね」とご主人。
風間建築事務所の過去の事例では、ゆとりある郊外の土地に建てられた大きなウッドデッキ付きの家も多い。そしてそこには、いつも心地いい風が吹き抜けていた。
しかし、家を建てる土地がたとえ住宅密集地だとしても、その考え方は変わらない。
3方が住宅に囲まれたT邸においても、南北に配された引き違い窓を開ければ、気持ちいい風が通り抜け、肌をなでていくのを体感できる。
2019年に創業した風間建築事務所。
自然の力を生かすパッシブデザインを取り入れた設計方針はそのままに、少しデザインにも変化が生まれている。そのベースになっているのが、“ミニマル”という新たなコンセプト。
それは、住宅に求められることや叶えたいライフスタイルを形にする際に、より本質的なことを見極め、無駄を排除して設計・デザインする姿勢だ。
そのコンセプトから生まれたT邸の2階リビングには、この土地の課題と真摯に向き合い、真剣に応えようとする風間建築事務所の実直な思いが現れている。
T邸
新潟市東区
延床面積 98.74㎡(29.86坪)、1階 45.33㎡(13.71坪)、2階 53.41㎡(16.15坪)
設計・施工 株式会社 風間建築事務所
写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平