※本記事は住宅情報WEBマガジンDaily Lives Niigataによる取材記事です。
毎日バイクをいじれる、理想のインナーガレージ
新発田市内の比較的新しい分譲地。その中の角地をNさん夫婦は購入した。
東面はインナーガレージ。南面にはルーバー状のウッドフェンスが道路に沿って左右に伸びている。
アプローチは敷地のコーナー部分から始まり、緩やかなカーブを描きながら、頑丈なイタウバでつくられたウッドデッキへと至る。
グランドカバーのディコンドラに埋まった枕木の上を歩くわずか数メートル。それは小さなプロムナードのようでもあり、ちょっとうきうきした気持ちにさせてくれる。
広いインナーガレージは、ご主人が家づくりで最もこだわった空間だ。車2台とご主人の愛車ハーレーダビッドソン・ショベルヘッドが格納されている。
「以前は友達の納屋にバイクを保管させてもらっていたので、新しい家ではガレージは絶対に設けたかったんです」とご主人。
ここで毎晩バイクをいじったり、カスタムパーツを作ったりすることがご主人の楽しみなのだという。
「僕がここでバイクをいじっている間、子どもたちは横で遊んでいたりします。それで嫁の手が空きますし、リビングとの間のFIX窓を通してお互いの様子が見える。それがこのガレージのいいところですね。はじめから窓を付けたいと思っていましたが、風間さんが思い切りよく足元からの大きい窓を提案してくださいました。見せてもらったCGのイメージ通り、いい感じになりましたね」(ご主人)。
ガレージ内には革ジャンやヘルメット、ミニカーのコレクションなど、ご主人の好きなものがあふれており、趣味室のようでもある。
深い軒がつくる心地いいポーチ&テラス
元々、ご主人が風間建築事務所の風間広大さんと出会ったのはバイク店だったという。
「偶然出会ったのが、ちょうど僕たちが家づくりを考え始めていた時で、その後話を聞きに行ったんです。それまで見て来たハウスメーカーの担当者はみんなスーツ姿でフォーマルでしたが、風間さんは服装も雰囲気も自由で自然体。営業をしてくることもない。そして、建築への想いがとても強く、この人なら自分たちの願いを形にしてくれると思いました。僕だけでなく嫁も同じように感じたそうです」とご主人。
ガレージ以外については、吹き抜けやリビング階段、ウッドデッキなどをご主人は希望。一方の奥様は、家事動線がスムーズで収納がたっぷりある家を望んだ。
とりわけウッドデッキについては、風間さんがこれまで手掛けた実例や、風間さんの自宅を見て強く共感したものだという。
ポーチの手前に立てば、柱がまっすぐ1間(約1.8m)間隔で並んでおり、そこに軒が架けられているのが見える。
深い軒に覆われた屋外空間は、雨の日も強い日差しが照り付ける日も心地いい風を感じながらリラックスして過ごせる場所。そんなゆとりが家に入る前から感じられる。
玄関ドアを開けると土間の向こうにガレージが見えた。
ガレージから直接玄関に入れる動線が確保されており、雨や雪が降っていてもストレスなく出入りできるのが特長だ。
玄関の隣はシューズクローク。ラワン合板でつくったオリジナルのスイングドアが空間に圧迫感を与えず中を目隠ししている。
玄関ホールのすぐ先もラワン合板を使ったオリジナルのドア。このドアを開けると、廊下を介することなくリビングにつながる。
耐震等級3をクリアしながら、吹き抜けと大開口を実現
LDKは15.5畳と面積自体は特別広くはないが、8畳分の大きな吹き抜けとリビング階段があり、容積がとても大きい。
柱が少ない大空間ではあるが、許容応力度計算がされており、耐震等級は最高等級の3をクリア。梁せい(梁の下面から上面までの高さ)が大きい特注材を使用することで、このような大空間と高い耐震性能を両立している。
そして、もう一つこのリビングに大きな開放感をつくり出しているのが、南側に設けられた大きな開口部だ。4枚の掃き出し窓を全開にすることで、約3.6mの大開口が生まれる。
これによりリビングとウッドデッキが連続し、外の心地いい空気が家の中へと流れ込む。
「ここは道路を挟んだ少し先が線路と田んぼで景色が開けています。この眺望をいかにリビングに取り込むかを考えて設計しました。また、ウッドデッキのすぐ前が道路なので、プライバシーを確保するために木のフェンスと植栽を設けています。植栽はいつもお願いしているスケープさんですね。ちなみにフェンスは電車を眺められる高さにしています」と風間さん。
普通列車に貨物列車、特急列車…。次にどんな電車がくるのだろうか?踏切の警報音が聞こえると子どもたちはワクワクしながら窓の外を見つめる。
雨の日でも過ごせる軒下のウッドデッキ
大開口でリビングとつながるウッドデッキは、縁側が現代的にデザインされたような場所だ。
「僕は軒についてはあまり意識していなくて、はじめは風間さんがこだわりたいデザインなのかな?くらいに思っていたんです。でも実際に住んでみると、日差しも雨も遮ることができ、雨の日でも外に出られる。デザインがいいのはもちろん、理に適っているのが風間さんの設計なんだと感じましたね」(ご主人)。
「子どもたちがコロナに感染して外出できない時期がありましたが、このウッドデッキのおかげで窮屈な思いをせずに過ごすことができました。子どもたちは普段もここをはだしで行ったり来たり。しゃぼん玉で遊んだり、おやつを持って出てピクニックごっこをしたりして楽しんでいます」(奥様)。
家の中のような外のような軒下は定まった用途がない場所でもある。その曖昧さがほっとする余白となり、心にもゆとりをつくり出す。
軒先の高さは1,800mm程度と低めにしており、それが包み込むような安心感を与えてくれる。
壁付けとアイランドのいいとこ取りをしたⅡ型キッチン
奥様が気に入っている場所の一つがⅡ型のキッチン。
はじめ奥様はアイランド型を希望していた。しかし、部屋の広さやダイニングテーブルとの関係性から大きなアイランド型キッチンを置くのは難しい。そこで風間さんが提案したのがⅡ型だったという。
「IHとシンクが分かれていますが実際に使ってみると不便さはありません。むしろ夫婦でキッチンに立った時は作業がしやすいですね。子どもたちがウッドデッキで遊んでいる様子を見ながら料理ができるのにも満足しています」(奥様)
壁側の吊戸棚でしっかりと収納スペースを確保したり、キッチン前にウォールナットのフローリングを貼ることで家具のように仕上げたり。機能も見た目の美しさもよく考えられている。
また、LDKの左奥にはパントリーやトイレ、洗面脱衣室や浴室などの水回りが固められている。
景色のいい南側にリビングを配し、いずれは家が建つ北側に水回りを固める。土地の方位や周辺環境から導き出したメリハリのある間取りだ。
目立たない場所に設けられたパントリーは、可動棚と収納ボックスをフル活用してすっきりと。パントリーの棚板にはラーチの積層合板が使われているが、縞模様の断面をそのまま見せるのは風間さんがよく用いる手法だ。それはこの家の随所に見られる。
棚板の他にも、ドアや床などに積層の断面を現すことで表情をつくり出している。
玄関はあえて上がり框を付けずにフローリングの断面を露出させることで、木部を薄く見せる。普段目にすることがないフローリングの構造も分かるデザインが面白い。
山並みを眺めるピクチャーウインドウ
段鼻が出ないタモ材でつくられたジグザグ型の階段もリビングの重要なインテリア。
階段の一部には本や小物を置く棚が造り付けられており、その上では薄いフラットバーの手すりが空間を斜めに横切っている。
独立した階段室では上り下りすることに意識が向かい、その上り下りが少し面倒なことにも思えてくる。
しかし、この階段はLDKの一部であり、歩きながら室内を眺めたり家族と話したりする場所でもある。上り下りというちょっと面倒な行為に意識が向かいにくいのも特長だ。
吹き抜けに面した2階廊下からの眺めもいい。幅1,650mm×高さ1,500mmの窓が切り取る風景は一幅の絵のようだ。
季節や時間、天候によって表情を変える山と空。廊下を通るたびに見えるこの景色は、子どもたちにとって生涯記憶に刻まれる原風景になるだろう。
この廊下も先程の階段と同様に、ただの通路ではなく景色を眺めるというプラスアルファの価値を含んでいる。
手を加えながら暮らしを楽しむ家づくり
「思い描いていた形の器を風間さんに用意してもらいました」とご主人は話す。
「僕は、家はできて終わりじゃないと思っているんです。子どもが成長すれば使い方も変わっていくでしょうし、この家はその時その時の変化に合わせて変えていけるつくりだと思っています。例えばこのガレージは、住んでから自分で棚を増やしていきました。外壁材やデッキ材の余りをもらったので、それを使っています。天然木の良さも風間さんとやり取りする中で学ばせてもらいました」(ご主人)。
取材に訪れたのは梅雨時真っ只中の6月下旬。しとしとと雨が降り続いていたが、掃き出し窓を全開放していても室内に雨は入らない。
雨音を聞きながら、吹き抜ける風を全身に感じる。ゆっくりと流れる時間に身をゆだね、まどろみたくなる空間。
住宅街でありながら、住宅街ではないような。そんなリラックスムードがこの家にはあふれている。
N邸
新発田市
延床面積 135.80㎡(41.08坪)、1階 79.49㎡(24.05坪)、2階 56.31㎡(17.03坪)
設計・施工 株式会社 風間建築事務所
写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平